無影燈

2020年11月号掲載

「初演説懸案素通り」と西日本新聞は報じた。日本学術会議会員任命拒否の理由は語らず、核兵器禁止条約や福島第一原発処理水の処分方針などにも言及しなかった菅首相。
新型コロナワクチン開発は遅れ、米英企業からの提供に頼る。やっとというべきか世界最高水準の感染症研究の中心となるBSL4施設の建設が長崎大学で進む。NBCの報道特集に出演した長崎大学熱帯医学研究所安田二朗教授は、日本学術会議の政府への提言が早期着工に結実したと述べた。
同様の提言はこの3年間だけで80件を超す。任命拒否問題では一貫して説明責任を果たさない一方で論点すり替えに終始し、行革の対象として組織の改編や予算の削減へとつき進む。
庶民派宰相のイメージが崩れ地金がむき出しに。ふりかえると森友・加計・桜疑惑に関する官房長官会見では「ご指摘は当たりません」「我が国は法治国家ですから」等の上から目線答弁を繰り返し、東京新聞の望月記者や内閣記者クラブ、東京新聞社に対し圧力をかけた。沖縄県の故翁長知事との会談では「戦後生まれなので歴史を持ち出されても困る」と言い放った。コンプレックスの裏返しか知性や学問に対する敬意を欠き、ことばを通じて意を尽くす姿勢のない人物なのだろう。政治家にとって言葉は思想だ。異論を許さない先にはさらなる分断の亀裂がまつ。

(人)

2020年10月号掲載

皆さんの元に支払基金からカードリーダーの無償提供の連絡が来ていると思われる。保険証を読み込むことによって来年3月からオンラインで資格確認ができるとの事だ。しかしこれは顔写真付きのマイナンバーカードを保険証として使用する前準備である。銀行口座と紐付ければアメリカのSocial Security Numberと同じ国民総背番号制の完成だ。
マイナンバーカードを利用する事によって、来年10月から2カ月前までのレセプト情報を各医療機関で閲覧可能となる。薬剤の重複処方を防ぐことができる等利点もあるが、将来病名をはじめ注射や検査内容も閲覧可能となれば、やりすぎではないだろうか。
ここまでやると守秘義務を侵害すると思われる。知られたくない病名や投薬内容も明らかになる。狭い地域では病名を知られたくない時は離れた都会の病院へ自費受診する患者さんは今でもいると聞く。
治療のために医師は患者さんの情報を漏れなく知る必要はあるだろうが、患者さん側からすれば初診時まだよく知らない医師からなんでも筒抜けになっているのはかえって怖く感じる方もいると思う。それなりの受診歴があって詳しく語られる患者さんが多いのも事実である。医療が決して患者管理にならないよう心掛けるべきと思う。

(一)

2020年9月号掲載

今から75年前の1945年9月、米軍ファーレル准将は「広島・長崎では、死ぬべきものは死んでしまい、原爆放射能のために苦しんでいる者は皆無だ」と記者発表した。以来、米国は残留放射線の人体影響を否定し続け、日本政府はこれに追随した。
2020年7月29日、広島地方裁判所の高島裁判長は、広島「黒い雨」訴訟で原告全員勝訴の歴史的な判決を下した。
判決は原告らの供述を重視し、内部被曝を認め、「原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあった」として被爆者援護法1条3号に該当すると認めた点で画期的といえる。
住民の供述を一切採用せず、内部被曝を認めず、外部被曝線量が100mSvに満たないとして原告の訴えを切り捨てた長崎の被爆体験者訴訟の判決と対照的である。
しかし、8月12日、広島県、広島市は国の要請に従い、無情にも広島高裁に控訴した。今後は内部被曝の人体影響の可能性が裁判の大きな争点となる。
長崎でも諦めきれない被爆体験者による新たな訴訟が長崎地裁で争われている。今回は広島の「黒い雨」訴訟を勝訴に導いた大瀧慈(めぐ)広島大学名誉教授という力強い助っ人が加わった。原告のみならず、広島、長崎の被爆未指定地域住民の怒り、無念をはらすべく、国の分からず屋に倍返ししたい。

(孝)

2020年8月号掲載

コロナ騒動は無駄な経費について考える良い機会かもしれない。
最近、人材紹介会社から毎日のようにFAXが届く。そういうところを利用している就活者は、就職が決まると支度金とばかりに人材会社から一定の報酬が出るので、ハローワークを利用することが馬鹿らしくなるだろうし、また何かあれば仕事を辞めて同じ伝手で就職口を探すことに躊躇しないかもしれない。就職希望者に支払われる報酬の原資は医療機関が人材会社に払う紹介料だから、ハローワークを通して雇用できれば生じなかった無駄な経費がかかることになる。
医療機関が人材紹介会社からのFAXを毅然として無視できれば良いのだが、そうはいかない状況を作っているのは国である。人員要件を付している施設基準がやたらに多く、施設基準を維持するために、どうしても一定の資格取得者を雇用し続けなければならない。国は「要件を満たさなくなったら取り下げるように」と簡単に言うが現場は大変なのである。
紅白歌合戦の平成元年と令和元年のラインナップを比較すると、健全な時代の流れを感じるのだけど、日本のビジネスのラインナップは相も変わらずおじさん企業が並んでいて構造の変化に乏しい。新しいビジネスと言えば、コンサルや人材派遣業のような本来は必要のない無駄に取り入ったものが散見されるだけだ。レセコンが医療機関にとって不可欠なものになったのと別の意味で、人材紹介会社も医療機関に巣食うパラサイトになるかもしれない。

(木)

2020年7月号掲載

新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため「新しい生活様式」が提唱された。3密や社会的距離などの新たな行動制限が生活を変え、ヒトとヒトの関係性に大きな変化が生じた。
江戸から明治にかけてはあらゆる面で社会システムの転換が行われた。戦前の軍国主義から戦後民主主義への移行では、価値観の大転換が起こった。そしていまコロナ禍による「新しい生活様式」である。
リモートワークにオンラインでの授業、診療、会議、演劇、音楽、飲み会、見合い等が緊急避難的に導入された。中には今後社会に定着していくものもあるだろう。だが社会生活全般に波及するとは考えにくい。
グローバリズムと強欲資本主義、新自由主義が新型ウイルスを蔓延させた。未開の地までも収奪の場にして開発した結果、世界は狭くなり感染は拡大した。コロナ禍で富める者はより富み、持たざる者はより貧困化し感染の標的となった。都市部への一極集中の弊害もあらわになった。拡大から縮小へ、集中から分散へ、集権から分権へが新たな社会のキーワードになるだろう。
コロナ後の社会に求められるものとは何だろう。感染者を排除する、自粛警察が活躍する、医療関係者を攻撃するような社会ではないはずだ。生活様式の変化にとどまらず、どのような社会を目指すのかがいま問われている。

(人)

2020年6月号掲載

ペスト、コレラ、スペイン風邪と100年毎のパンデミックが不幸にもまた発生し、世界中に広まった。院内感染の恐れと外出制限のため受診抑制が起こり、医療界も不況となってきた。
新型コロナに対して世界での対応は各国まちまちで、完全ロックダウンを行った中国と、ロックダウンを敷かなかったスウェーデンが両極で、日本は政府対応のまずさで、その中間に位置すると思われる。まだワクチンの無いウイルスに対して早急な60%以上の抗体保有を目指すスウェーデンと徹底隔離法の中国とどちらが正しいのかはわからないが、賢者は歴史から学ぶと言ったビスマルクに従えば、100年前のスペイン風邪に学ぶべきであろう。3年間にわたり流行し、第1次世界大戦中という状況の悪さもあって世界人口の30%が感染、最大20%の致死率と推定されている。一方日本は3年間での致死率は当時でも1.63%であった。そして今回スウェーデンの死亡率は5月現在0.12%である。長崎に関係のある2隻のクルーズ船の感染状況は図らずも現代の感染モデルだろう。感染率はそれぞれ19.2%、23.9%、死亡率は感染者の1.8%、0%であった。このまま不況が長引けば病死でなく自殺者が急増することが考えられる。政府の適正な政策が望まれる。

(一)

2020年5月号掲載

明治27年6月、日清戦争開戦前夜。6人の日本人医師団が香港の死体置き場にいた。目的は伝染病で死亡した患者の病理解剖。猛暑の中、窓を締め切り、汲み置きの水で解剖は極秘裏に開始された。死体は既に腐敗が進行していた。
顕微鏡を覗く青年医師の名前は北里柴三郎。彼には事前に作戦があったという。病歴と病理所見が最も近似する既知の感染症を手掛かりにする。北里は死体の脾臓やリンパ節の腫脹が炭疽菌に似ていることに気づいた。炭疽菌に似た感染症なら血液中に病原体が存在するかもしれない。
北里の予測は的中した。伝染病患者の血液中から未知の病原体が検出されたのである。これこそ有史以来人類を恐怖のどん底に陥れてきたペスト菌の発見であった。
14世紀のペストの大流行では全世界の人口の22%にあたる1億人がペストのために死亡したと推計されている。
北里の功績はペスト菌の発見に止まらない。ペスト菌患者の家からネズミの死骸が大量に見つかったことから、死にかけたネズミの血液を調べ、ペスト菌を確認したのである。かくしてペストがネズミから蚤を介してヒトに感染する人獣伝染病であることが判明した。
時は流れ、2020年。新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっている。人類が再び勝利する日が来ることを確信したい。

(孝)

2020年4月号掲載

志村けん氏死亡のニュースは衝撃的だった。コロナウイルスの猛威にいつか終焉が来るとして、今がどの段階なのかさえ判然としない。物事が上手く運ばない時は、できるだけじっとして状況が変わるのを待つものだけど、まさにその言葉通り、動かずじっとしていることに理があるようだ。
欧米ではあっという間に感染が広がり、医療機器あるいは医療スタッフなど医療インフラが崩壊しかけている現場の様子が伝わってくる。日本は皆保険で医療機関にかかりやすい分、今回のような緊急時には最初のアクセスを絞ることに重きを置かれているが、中等度以上の患者への対応が遅れがちになっている。村中璃子氏はコロナを専門に対応する医療センターの設置が医療資源を効率的に運用するために効果的であるとしている。関係機関での協議が急がれる。
森友事件に絡んで自殺された官僚の手記が明らかになった。これだけの事件でありながら関係者は不起訴とされた上、随分と出世されて安泰であるようだし、政権は再調査しないどころか、定年を延長してまで政権に近い人物を検察庁長官に据えようというのだから、亡くなった方は浮かばれないだろう。
良くも悪くもコロナウイルスの前だけが人類みな平等のようである。

(木)

2020年3月号掲載

「一つの妖怪がヨーロッパを徘徊している」で始まる有名な共産党宣言。翻って今、二つのウイルスがこの国を徘徊している。コロナウイルスとアベノウイルスだ。
「桜を見る会」疑惑では、首相答弁は完全に破綻した。元検事で弁護士の郷原信郎氏は、将棋でいえばとうに「詰んだ」状態という。嘘の上塗り答弁に、忖度した官僚の無理筋答弁は、国会中継を見るにつけあまりに傷ましく、憐れみすら浮かぶ。
首相、官邸のシナリオに合わせ、法令の範囲内ですべての言動のつじつまを合わせるのが、安倍政権下の官僚の慣わしという。新型肺炎対策でも後手後手のうえ、スピーディーに適切な対応を打ち出す姿勢はみられない。25日政府の基本方針が発表されたが、国民の不安を解消するような、新たな具体策は打ち出されなかった。すると27日、小中高一斉休校のニュースが飛び込んできた。日替わりのうえ、一気に劇薬を投与した。
首相の頭にあるのは、経済とオリンピックなのだ。東京五輪誘致の際、福島原発はアンダーコントロールと大見えを切った。そしていまコロナウイルス。感染者激増でオリンピック中止ともなれば、レガシーは残らない。識者は民間の検査体制の拡充を当初から指摘してきたが、一向に改善しない。もはや理性的な政策判断すらできない状態だ。退陣の潮時だろう。

(人)

2020年2月号掲載

今から40年前、1980年の協会新聞2月号に第26回保団連九州ブロック会議の決議文が掲載されている。
「一、診療報酬を大幅に引き上げよ。」保団連は25%アップを要求したが、結果は7.9%アップに止まった。2020年度の本体改定率プラス0.55%と比べると夢のような数字だ。「一、老人医療の有料化反対。」老人の窓口負担がゼロだった時代である。当時30歳代の働き盛りだった団塊の世代も、まもなく後期高齢者となり、その窓口負担も1割から2割になろうとしている。「一、歯科用貴金属材料基準を即時適正にせよ。」記事によれば、補綴部門の逆ザヤが最近の貴金属材料の高騰によりさらに著しくなった、と解説されている。
古くて新しい金パラ逆ザヤ問題。昨年11月に長崎協会で始まった「金パラ逆ザヤシミュレータ」は全国に拡大し、1月末までに42都道府県から4864件のデータが集約された。特に今年1月に入ってからの金パラ価格はこれまでに経験したことのない異常な高騰を示している。昨年9月に30gで5万4千円だった納入価が1月末には8万円を突破する勢いだ。消費税を加えると9万円に迫る。しかし保険請求は公示価格の5万250円しかできない。4万円の損。
まもなく4月の金パラの改定公示価格が決定する。はたして史上空前の逆ザヤは解消されるのか。注目される。

(孝)

2020年1月号掲載

東京オリンピックのマラソンがIOCの意向で急遽札幌に変更になった。もともと熱い8月では無理なところを4000億ドルにもなるスポンサーの意向で決定したのではなかったか。前回同様の10月であったらほぼ何の問題もなかったはずである。今年は体育の日も7月24日スポーツの日として変更されるそうである。IOCはオリンピックの度に広告収入として入ってくるのであろうし、建設業者、メディア等は潤うのであろうが、開催都市住民にとっては後世まで借金が残る。札幌は45年かけてオリンピックの借金を返済したが、長野は20年後の今もまだ返済途中だという。前回の東京オリンピックはすでに借金は返していると思われるが、今回の借金は100年かかっても返せないほどと言われている。数万の無料一般ボランティアの他に1000名に及ぶ無料の医療ボランティアを東京医師会は受け入れたと昨年報道された。責任ある医療ボランティアが無料でいいのであろうか。医療事故があれば誰が責任を取るのか。また東京はそんなに医師が余っているのかとの批判も出てきそうだ。余っているのならそのスタッフを離島等の医療過疎地域に派遣してもらいたいものである。札幌の医療ボランティアもどうなるのか気になるところである。IOCがあまりに日本を無視した決定にふと思いついてのべてみた。

(一)

2019年12月号掲載

桜を見る会の参加者を自民党議員に割り当てているのではないかと質問した記者に対し自民党の二階幹事長は「誰でも議員は選挙区と皆さんに機会あるごとに何かできるだけのこと呼びかけてご参加頂くことにいうことに配慮するのは当然ではないかと思う」と見解を述べた後、「あったって別にいいんじゃないんですか。何か特別そのことが問題になることがありますか?」と逆に質問し、さらに「あなたがいかにも何か問題がありそうな発言をしているが何か問題になるようなことがありますかって訊いてんだ」とさらに重ねた。ただし、その一方で、内閣府は参加者名簿の開示を要求されて慌てて廃棄した気配があるのだから、税金を使うイベントでもあるし、きっと何か問題になるような中身だったに違いない。
今上天皇の即位を祝う「天皇陛下万歳!」の声と揺れる提灯の灯りに高揚する人達も多いだろう。ただし、そういう風景に、万歳の声で若者を戦場を送り出し、勝った勝ったと提灯行列が練り歩くような時代を重ねる人達もまた少なからずいる。
法律を変え、言われるがままに武器をどんどん買い、桜を見る会のような問題を厚顔無恥に一喝する政権を支持する人達がたくさんいるが故に心配なのである。

(木)

2019年11月号掲載

「取る人の無き柿の実の熟れし後赤黒く枯れ小さくなりぬ」。友人の作である。抒情的なところに惹かれ、写真短歌に足を踏み出すきっかけとなった。今ではあちこちの里山で見かける光景だ。
石木ダム予定地の行政代執行が迫る川棚町の川原地区もそんな場所だ。夏にはホタルが飛び交い、秋には稲穂が実り畔には彼岸花が咲き誇る自然豊かな所だ。だが住民は「公共の利益のために」という理屈から、住み慣れた集落を追い出されようとしている。この国の公共事業は走り出したら止まらないブレーキの壊れた自転車のようだ。存在感の薄い中村知事も、いま工事を中止するなら歴史に名を残すこともできるだろうに。
ハウステンボスにカジノを誘致するともいう。やれ経済効果だ雇用創出だと威勢のいい、破綻した論理を持ち出し皮算用をはじく。マイナス面を差し引いてもお釣りがくるそうだ。韓国の江原もアメリカのアトランティックシティでも、いずれも失敗したが対岸の火事なのだ。
金儲けのためならどんなタガもはずす。本来なら規制すべき公営ギャンブルを推進してきたのは行政だ。もはや国家的詐欺とも言える状況だ。ギャンブル(依存)症者が500万人を超えるこの国で、さらに患者を増やす愚策を進めるのも、止めるのも人間。理性を取り戻す時だ。

(人)