2023年9月号掲載
若者言葉の「バズる」とは、多くのハチが群がる様子を表す英語の「buzz」に由来し、SNSやインターネットで一つの話題に注目が集まり、アクセスが沸騰する様をいう。
顔認証付きカードリーダーはAIが本人かどうかを判断し、普及率は8割を超えた。先日、ふと思いついて自分の顔写真を紙に印刷し、フェースシールドに貼り付けてお面を作り、自分のマイナンバーカードで顔認証したところ、すんなり認証を通過してしまった。スタッフにお面をかぶせて試しても同様の結果であったので動画に撮影した。この動画に注目した東京新聞が【検証】他人のマイナ保険証が使える?医師「なりすましできてしまう」と題して電子版に掲載、動画を公開したところ、バズった。記事の閲覧数は1日で10万回を超え、翌日のX(エックス、旧ツイッター)ではトレンド入りを果たした。Xのトレンドに入るのは、一生のうちこれが最初で最後だろう。
医療機関を受診するのに何故顔認証が必要なのか。政府は「なりすまし」受診を防ぐためだと説明するが、それならばマイナンバーカードには顔写真が印刷されているので受付で確認すれば済むことである。逆にマイナンバーカードの顔写真から簡単になりすましができてしまう。本末転倒である。AIを過信してはいけない。
(孝)
2023年8月号掲載
今年は戦後78年になる。自分は62歳で、戦争は読んだり聞いたりして学ぶものだけど、敗戦からほんの15年やそこらで生まれたのだし、若い人からみたら、もしかしたら空襲を経験したと勘違いをされるぐらい、今よりもはるかに戦争に近い世代のように感じられることだろう。
僕ら前後の世代と、令和の今とで、本当はどちらが戦争に近い世代かというのは、この先、何年戦争を避けられるかという問題にかかっている。原爆の、終戦の夏はそれを考える季節である。その日がXデーとして、Xデーがいきなりやって来ることはないから、その前兆をとらえるには、過去のXデーを迎える前のことが参考になる。
1941年12月8日の開戦の年。6月にヒトラーがソ連に進攻。日本では7月に御前会議で対米英戦を辞さずの決定が下される。その前の年、アメリカとの関係改善を模索した米内内閣が倒れ近衛内閣が発足。さらにその前の年、アメリカの対日石油禁輸につながる天津事件が勃発。国内で反英感情が沸き上がった。
結局、戦前も世論が国を動かしていた。憲法が変わっても根強い軍事依存体質が治らないのは仕方ないとして、「今日は戦争をしないで済んだ」という日を一日一日積み重ねて、とりあえず戦後100年を目指してはどうかと思う。
(木)
2023年7月号掲載
先進国ではLGBTに対する理解が進んでいるが、法的にも差別を温存している日本。LGBT法が成立した。当事者団体は「さらに生きづらさを強いる」との非難声明を出した。
電通が先年実施した6万人調査では、LGBTは8.9%だった。少数派とはいえ、わが国の人口に当てはめると1千万人もが該当する。大学病院で専用相談窓口を設置しているのは順天堂大学のみ。多くの人が医療へのアクセスを奪われている。西日本新聞の調査では性的少数者の3人に2人が医療サービスでの困難事例の体験者だ。この国はいつでも、どこでも、誰でも医療が受けられるはずではなかったか。そこに多様性と人権は垣間見えない。
わが国は歴史的にもジェンダーレスな社会だった。古代の女系社会から平安後期、室町時代は女性の時代。戦乱の世では男性優位に変わる。いまの常識はせいぜい明治以降に確立されたにすぎない。性道徳の面でもルイス・フロイスやフランシスコ・ザビエルなどは日本の性の緩さに驚きを隠さなかった。権威主義者のいう伝統とは視野狭窄でしかない。
総選挙はいずれ行なわれる。頭が固く特権意識の鎧を着た高齢議員は無論アウト。ワンイシューででも投票したい。LGBT法やマイナ保険証、岸田ジュニア問題だっていい。これだけは譲れないということが必ずあるはずだ。
(人)
2023年6月号掲載
電気(EV)自動車に試乗する機会があった。欧米や中国ではEV車が主流とのことで、数年後には日本でもガソリン新車は販売不能になるとの報道であるが、これが本当に脱炭素ガスになるのであろうか。重い電池は車の重量を増し、燃費の悪化とタイヤの消耗を早めると説明を受けた。電池のレアメタル採掘に要する費用はむしろCO2を増やすのではと思う。電気は貯めることが困難で、そのため多くの医療機関が安い(余った)原発による夜間電気用温水器の設置を勧められた。
電気を作るためのエネルギー変換効率は石炭火力で40%、原子力発電で33%とされるが、電力からさらにモーターで動力とするためには20~99%の変換効率で、50%前後のディーゼルエンジンよりも劣る。このまま電気自動車の方向に進むのが本当に脱炭素ガスとは思えない。
例えばドイツは原発大国フランスやロシアからほとんどのエネルギーを買って、自らはクリーンエネルギー大国と言っていたが、去年の冬から実現不可能な脱炭素、脱原発の「誤り」が露呈し、そのため強引なEV計画の先延ばしや国内石炭産業の「再活性化」をせざるを得ない状況となっているそうだ。原発が危険なことは福島第1原発で証明済みである。EVは決してCO2削減にはならない。
(一)
2023年5月号掲載
東長崎の旧古賀村はかつてキリシタンの村だった。安土桃山時代には、5つの教会とセミナリオがあったという。江戸時代になりキリスト教が禁止された。教会は取り壊され、教徒は弾圧、処刑された。八郎川のほとりに殉教者を弔う碑がひっそりと佇んでいる。潜伏キリシタンとなった人々は聖母マリアのかわりに子安観音の像をつくり、ひそかに信仰の灯をつないだ。今でも、小さな子安観音像が国道34号線沿いの小高い丘に祭られている。子安信仰は安産、子育て、子沢山を願う信仰である。
江戸時代、20代の女性の10人に1人は出産で命を落としたともいわれる。我国の出産1000に対する周産期死亡率は1970年に21・7だったものが、2020年には3・2まで低下した。2018年、ユニセフは日本を「赤ちゃんがもっとも安全に産まれる国」であると報告した。
その一方で2022年の出生数は80万人を切った。少子化は政府機関の推定よりもはるかに早いペースですすんでいる。岸田首相は子ども関連予算を倍増し、異次元の少子化対策を行う方針を示した。しかし、その財源として社会保険料の引き上げが検討されている。出産一時金の財源として後期高齢者の医療保険料が引き上げられることも閣議決定された。国民に負担を強いるのではなく防衛費を削ることはできないのか。
(孝)
2023年4月号掲載
WBC準決勝9回裏、村上選手の打球がセンターの頭上を越えた時、嬉しさのあまり泣いてしまった。投げるほうも打つほうもパワーでも引けをとらない選手達が揃ったことに驚く。一朝一夕にできることではないから、効果的な練習や身体を壊さない起用法がプロに限らず実践されるようなった証しかもしれない。
日本サッカーは、メキシコオリンピック銀メダルの後、1991年のJリーグ発足まで低迷期が続いた。結局、ワールドカップに出場するまで、銀メダルから30年かかっている。直近のワールドカップで、ドイツ、スペインを破ったが、もし、プロリーグが発足していなかったら、永遠に勝つチャンスは訪れなかっただろう。水泳も代表選手を会議ではなくて記録会の結果で選ぶようになってから強くなったようだ。
サッカー、水泳に限らず、一時は成功を経験した競技に、その後長い低迷が続く競技があるような気がする。成功体験に引きずられて組織の人事が滞ったままでは合理的な判断がなされるはずもない。
人は成功体験で失敗し、失敗体験でまた失敗するが、組織もまた同じである。相手は常に同じではない。あの頃は良かったという時期があるなら、なおさら、変わらない人、変われない組織であってはならない。
(木)
2023年3月号掲載
バイデン大統領にお褒めの言葉をかけられ満面の笑みの岸田首相。自発的服従なのか、戦後掲げた平和国家の看板を投げ捨て、軍事国家へと進む戦争準備を始めた。
日米首脳会談に先立ちG7の仏、伊、英、加を訪問し軍事協力を確認した。フランスとは自衛隊との共同訓練、英国とは戦闘機の共同開発を約束した。もはやNATOの一員かと見まがうほど。米国とは宇宙開発における協力関係も深め、軍事利用をも強化する。軍事面での両国の一体化が戦後最も強化され、平和外交は風前の灯火となった。
国内では防衛省がAIを使って世論工作を進めるための研究を始めた。学術会議問題には軍事研究推進の底意が透ける。ウクライナ戦争開始以来、中国、北朝鮮の脅威をあおる報道も激増した。防衛力強化に向けた有識者会議では朝日、日経、読売の幹部、経営者も軍拡を後押しする。貧すれば鈍するか、戦前の翼賛報道を彷彿とさせる。沖縄・南西諸島では基地機能の強化が図られ、弾薬庫の新増設も始まった。他国の新たな標的となるのは必至だ。
土門拳の写真で知られる「国民精神総動員運動」が日中戦争の開始と同じ1933年に発表され、国民の一体化を強めた。この年ナチスも権力を掌握した。わが国は太平洋戦争まで坂道を転げ落ちる。なぜ今、過ちを繰り返すのか。
(人)
2023年2月号掲載
甲斐の武田信玄は、駿河の今川氏、相模の北条氏と敵対していた。甲斐は山国で塩がとれない。それに目をつけた今川氏と北条氏は協力して甲斐に塩を送らないようにした。今でいう経済封鎖である。甲斐の領民は大いに困った。ところが同じく武田と敵対していた上杉謙信は人々を救うために多くの塩を送った。この物語は後世の創作とされているが、「敵に塩を送る」という故事の由来となった。
2007年に始まった被爆体験者訴訟は2019年の最高裁上告棄却で原告全員の敗訴が確定した。それでも諦めきれない原告44人が長崎地裁に再提訴し、現在も公判が続けられている。被告は長崎市と長崎県である。その長崎県が2022年に専門家会議を設置した。7月に報告書を取りまとめ、厚労省が被爆体験者に被爆者健康手帳を交付しない理由として主張する最高裁判決と黒い雨の有無に関する見解を明快に切り捨てた。
1月16日、長崎地裁では被爆体験者4人の本人尋問が行われた。当時の状況を切々と訴える原告の証言は聞く人の胸を打ったという。ところが同じ日、厚生労働省は専門家会議の報告書を否定し、被爆体験者を被爆者認定の対象とすることはできないという見解を公表した。県は敵に塩を送り、国は傷口に塩を擦り込んだ。一日も早い救済を望みたい。
(孝)
2023年1月号掲載
当初国は来年4月までにオンライン資格確認を必須とし、さらに保険証を廃止してマイナンバーカードに統一することを目指していた。12月もおしせまって緩和策を表明したが、このように医療機関に更なる出費、負担を強いる政策に日本医師会は反対するわけでもなく、むしろ説明会に参加する等賛成の方向で動いている。この政策のため青森協会の会員が廃業したことが報告されており、長崎でもその候補者がいる。
大阪医科協会顧問弁護士の西晃氏は健康保険証の廃止は河野デジタル大臣が記者会見で発言したのみで、法律上それだけで保険証の廃止はできないとする記事を掲載した。
憲法41条の規定により国民に何らかの義務を課し権利を奪うことを定める場合は行政機関だけで判断はできない。本来任意のマイナンバーカードに国が加入を強制する保険制度の保険証を義務化するのは矛盾している。
ベンダーからはICチップの不足、人手不足で、来年4月完了は無理との見解が示されている。マイナンバーカードがなくても資格確認はできることはすで解っており、1兆8000億円ものマイナポイントを使ってマイナンバーカードを使用させる意義が理解できない。カード普及の手段の一つとして保険証に代わって使用させようとしているとしか思えない。
(一)
2022年12月号掲載
岸田内閣では、3人の大臣が不祥事で辞めた上、他にも問題を指摘されている閣僚もいて内閣支持率は低迷している。ただ、今こそ政治が劣化しているかと言うと、内閣が2つ3つひっくり返ってもおかしくない嘘があった安倍長期政権と、順番に責任を取らされている今の内閣と、後者の支持率が低いのだから劣化しているのは政治家ばかりではないということか。
ウクライナには、多数派のウクライナ語を話すウクライナ人と東部に住む少数派のロシア語を話すウクライナ人がいて、両者の関係は必ずしも良くなかった。ゼレンスキー氏に至るまでのウクライナ大統領の交代劇や、開戦前夜の様子を知れば、両者それぞれ多少の妥協はしても休戦協定を結んだほうが良いと思えてくる。ただし、報道が多少の嘘を加えて一方的な勧善懲悪主義に徹しており、ロシアが完全撤退するまで戦争が続くことを世界の人々が願うことになっている。
アメリカの軍需関連会社は、自国が参戦しなくても儲かる新たな仕組みをウクライナで得た。日本の軍事費2倍化の動きも、要は誰かの儲かる仕組みに上手いこと乗せられているのである。そのツケを支払うのは増税で生活費を切り詰められる国民だが、煽られながら正しい判断が下せるか試されている。
(木)
2022年11月号掲載
「♪もうどうにも止まらない」。岸田政権のことだ。支持率は下がり、物価高と円安に対しても「状況を注視する」、「断固たる措置を取る」と視点が定まらない。国葬問題以降は崖っぷちにいる。中島岳志東工大教授は「ぶれることだけはぶれない」と評する。
24年秋に保険証を廃止して、マイナ保険証を義務化する方針を突如打ち出した。各紙は社説で「あまりに拙速」、「義務化許されぬ」と一斉に批判した。医療界からも不安の声が上がる。チェンジ・オーグのネット署名は10日あまりで11万を超えた。国民は置き去りにされ、不安は高まる一方だ。
河野デジタル相はマイナ保険証の未取得者対策や紛失時の対応など走りながら考えるという。なんとも器用な人だ。アメリカではソーシャル・セキュリティ・ナンバーカードは持ち歩かないが基本だという。出発点から間違っているのだ。ともあれ、マイナポイントで釣る前に不安解消の具体策を探り、国民の声に耳を傾ける方が先だった。
基本、国民をなめきっている。丁寧な説明と繰り返すが、内実が伴わない。政策に一貫性がなく朝令暮改発言もするようでは信頼が高まるはずもない。支持率に一喜一憂せず、派閥の支配から脱し、国民目線に立つ。それこそが生き残る道だが、いまや糸の切れた凧だ。
(人)
2022年10月号掲載
国は来年4月からオンライン資格確認の義務化を決定した。
オンライン資格確認システムができてなくても直ちに保険診療ができないわけではないが、厚生労働省,三師会が合同で行った医療機関向けの説明会で、導入していなければ療養担当規則に反することとなり、個別指導の対象となりうるとの半ば脅し気味の導入強制説明会であった。9月中に50%を目指しているが、いまだ38%の導入率で、このままでは3月末で59%と見積もっている。そのための合同説明会だったと思われる。
今年7月時点での導入申し込み数は全医療機関の61%、運用開始施設はまだ25.8%に過ぎず、中でも医科診療所は17.4%、歯科診療所17.8%に過ぎない。
一方患者さんからの側で見ると、マイナンバーカード申請はいまだに47・8% そのうち保険証としての利用登録は24.7%、実に1割強しか利用していないことになる。早急な義務化は時期尚早ではなかろうか。また全ての医療機関が朝から一斉資格確認のアクセスをすると、システムエラーを引き起こすのではと危惧される。医療機関が更なる負担を強いられる今回の導入は医療機関のためにはなっていない。なかなか進まないマイナンバーカードの普及のために利用されている気がする。
(一)