無影燈

2023年3月号掲載

バイデン大統領にお褒めの言葉をかけられ満面の笑みの岸田首相。自発的服従なのか、戦後掲げた平和国家の看板を投げ捨て、軍事国家へと進む戦争準備を始めた。
日米首脳会談に先立ちG7の仏、伊、英、加を訪問し軍事協力を確認した。フランスとは自衛隊との共同訓練、英国とは戦闘機の共同開発を約束した。もはやNATOの一員かと見まがうほど。米国とは宇宙開発における協力関係も深め、軍事利用をも強化する。軍事面での両国の一体化が戦後最も強化され、平和外交は風前の灯火となった。
国内では防衛省がAIを使って世論工作を進めるための研究を始めた。学術会議問題には軍事研究推進の底意が透ける。ウクライナ戦争開始以来、中国、北朝鮮の脅威をあおる報道も激増した。防衛力強化に向けた有識者会議では朝日、日経、読売の幹部、経営者も軍拡を後押しする。貧すれば鈍するか、戦前の翼賛報道を彷彿とさせる。沖縄・南西諸島では基地機能の強化が図られ、弾薬庫の新増設も始まった。他国の新たな標的となるのは必至だ。
土門拳の写真で知られる「国民精神総動員運動」が日中戦争の開始と同じ1933年に発表され、国民の一体化を強めた。この年ナチスも権力を掌握した。わが国は太平洋戦争まで坂道を転げ落ちる。なぜ今、過ちを繰り返すのか。

(人)

2023年2月号掲載

甲斐の武田信玄は、駿河の今川氏、相模の北条氏と敵対していた。甲斐は山国で塩がとれない。それに目をつけた今川氏と北条氏は協力して甲斐に塩を送らないようにした。今でいう経済封鎖である。甲斐の領民は大いに困った。ところが同じく武田と敵対していた上杉謙信は人々を救うために多くの塩を送った。この物語は後世の創作とされているが、「敵に塩を送る」という故事の由来となった。
2007年に始まった被爆体験者訴訟は2019年の最高裁上告棄却で原告全員の敗訴が確定した。それでも諦めきれない原告44人が長崎地裁に再提訴し、現在も公判が続けられている。被告は長崎市と長崎県である。その長崎県が2022年に専門家会議を設置した。7月に報告書を取りまとめ、厚労省が被爆体験者に被爆者健康手帳を交付しない理由として主張する最高裁判決と黒い雨の有無に関する見解を明快に切り捨てた。
1月16日、長崎地裁では被爆体験者4人の本人尋問が行われた。当時の状況を切々と訴える原告の証言は聞く人の胸を打ったという。ところが同じ日、厚生労働省は専門家会議の報告書を否定し、被爆体験者を被爆者認定の対象とすることはできないという見解を公表した。県は敵に塩を送り、国は傷口に塩を擦り込んだ。一日も早い救済を望みたい。

(孝)

2023年1月号掲載

当初国は来年4月までにオンライン資格確認を必須とし、さらに保険証を廃止してマイナンバーカードに統一することを目指していた。12月もおしせまって緩和策を表明したが、このように医療機関に更なる出費、負担を強いる政策に日本医師会は反対するわけでもなく、むしろ説明会に参加する等賛成の方向で動いている。この政策のため青森協会の会員が廃業したことが報告されており、長崎でもその候補者がいる。
大阪医科協会顧問弁護士の西晃氏は健康保険証の廃止は河野デジタル大臣が記者会見で発言したのみで、法律上それだけで保険証の廃止はできないとする記事を掲載した。
憲法41条の規定により国民に何らかの義務を課し権利を奪うことを定める場合は行政機関だけで判断はできない。本来任意のマイナンバーカードに国が加入を強制する保険制度の保険証を義務化するのは矛盾している。
ベンダーからはICチップの不足、人手不足で、来年4月完了は無理との見解が示されている。マイナンバーカードがなくても資格確認はできることはすで解っており、1兆8000億円ものマイナポイントを使ってマイナンバーカードを使用させる意義が理解できない。カード普及の手段の一つとして保険証に代わって使用させようとしているとしか思えない。

(一)

2022年12月号掲載

岸田内閣では、3人の大臣が不祥事で辞めた上、他にも問題を指摘されている閣僚もいて内閣支持率は低迷している。ただ、今こそ政治が劣化しているかと言うと、内閣が2つ3つひっくり返ってもおかしくない嘘があった安倍長期政権と、順番に責任を取らされている今の内閣と、後者の支持率が低いのだから劣化しているのは政治家ばかりではないということか。
ウクライナには、多数派のウクライナ語を話すウクライナ人と東部に住む少数派のロシア語を話すウクライナ人がいて、両者の関係は必ずしも良くなかった。ゼレンスキー氏に至るまでのウクライナ大統領の交代劇や、開戦前夜の様子を知れば、両者それぞれ多少の妥協はしても休戦協定を結んだほうが良いと思えてくる。ただし、報道が多少の嘘を加えて一方的な勧善懲悪主義に徹しており、ロシアが完全撤退するまで戦争が続くことを世界の人々が願うことになっている。
アメリカの軍需関連会社は、自国が参戦しなくても儲かる新たな仕組みをウクライナで得た。日本の軍事費2倍化の動きも、要は誰かの儲かる仕組みに上手いこと乗せられているのである。そのツケを支払うのは増税で生活費を切り詰められる国民だが、煽られながら正しい判断が下せるか試されている。

(木)

2022年11月号掲載 

「♪もうどうにも止まらない」。岸田政権のことだ。支持率は下がり、物価高と円安に対しても「状況を注視する」、「断固たる措置を取る」と視点が定まらない。国葬問題以降は崖っぷちにいる。中島岳志東工大教授は「ぶれることだけはぶれない」と評する。
24年秋に保険証を廃止して、マイナ保険証を義務化する方針を突如打ち出した。各紙は社説で「あまりに拙速」、「義務化許されぬ」と一斉に批判した。医療界からも不安の声が上がる。チェンジ・オーグのネット署名は10日あまりで11万を超えた。国民は置き去りにされ、不安は高まる一方だ。
河野デジタル相はマイナ保険証の未取得者対策や紛失時の対応など走りながら考えるという。なんとも器用な人だ。アメリカではソーシャル・セキュリティ・ナンバーカードは持ち歩かないが基本だという。出発点から間違っているのだ。ともあれ、マイナポイントで釣る前に不安解消の具体策を探り、国民の声に耳を傾ける方が先だった。
基本、国民をなめきっている。丁寧な説明と繰り返すが、内実が伴わない。政策に一貫性がなく朝令暮改発言もするようでは信頼が高まるはずもない。支持率に一喜一憂せず、派閥の支配から脱し、国民目線に立つ。それこそが生き残る道だが、いまや糸の切れた凧だ。

(人)

2022年10月号掲載

国は来年4月からオンライン資格確認の義務化を決定した。
オンライン資格確認システムができてなくても直ちに保険診療ができないわけではないが、厚生労働省,三師会が合同で行った医療機関向けの説明会で、導入していなければ療養担当規則に反することとなり、個別指導の対象となりうるとの半ば脅し気味の導入強制説明会であった。9月中に50%を目指しているが、いまだ38%の導入率で、このままでは3月末で59%と見積もっている。そのための合同説明会だったと思われる。
今年7月時点での導入申し込み数は全医療機関の61%、運用開始施設はまだ25.8%に過ぎず、中でも医科診療所は17.4%、歯科診療所17.8%に過ぎない。
一方患者さんからの側で見ると、マイナンバーカード申請はいまだに47・8% そのうち保険証としての利用登録は24.7%、実に1割強しか利用していないことになる。早急な義務化は時期尚早ではなかろうか。また全ての医療機関が朝から一斉資格確認のアクセスをすると、システムエラーを引き起こすのではと危惧される。医療機関が更なる負担を強いられる今回の導入は医療機関のためにはなっていない。なかなか進まないマイナンバーカードの普及のために利用されている気がする。

(一)

2022年9月号掲載

長崎バイパスから大橋の交差点を過ぎ、小路を左折した坂の上の青空駐車場に車を停める。左手の小さな階段を上ると、そこは平和公園。大理石の白いモニュメントが微笑みかける。「乙女の像」。中国で造られ裏に「和平 胡耀邦」の揮毫がある。
胡耀邦は親日派として知られ、1981年から1987年まで中国共産党の党首を務めた。1983年に長崎を訪れ、平和祈念像に花輪を捧げて黙祷した。中国のトップが平和公園で献花しても大きな話題にはならなかったようだ。それほど当時の日中関係は良好だった。2年後の1985年7月、「乙女の像」が寄贈された。同年、長崎保険医新聞の11月号は創刊100号特集。1面を飾ったのは川谷石太郎氏撮影の「乙女の像」だった。「乙女の像」は2012年に協会が発行した冊子「無影燈」の裏表紙にも使われ、協会ホームページでもお馴染みだ。
9月29日は日中国交正常化50周年の記念日である。
低迷を続ける日本に対し、成長を続ける中国は米国に次ぐ超大国となり、緊迫の度を増す米中関係を背景に日中関係も新たな時代を迎えようとしている。
「乙女の像」には「百折千回心不退」と刻まれている。「百回の曲折があっても、心はかわらない」の意味という。長崎は歴史的にも中国との繋がりが深い。これからも平和と友好の関係を望みたい。

(孝)

2022年8月号掲載

元首相というこれ以上政治的な人いないだろうという対象を銃殺しながら、事件直後は、母親が入れ込んだ統一教会絡みの因果で済みそうだった。その宗教団体が金銭的にも人的にも多数の政治家と関係し、政治家も教会に祝電を送るなど日常的な関係になっていることが判明するに及んで、やっぱり政治の問題なのだと再認識した。
統一教会が希望し、所轄の文科省がなかなか認めて来なかった「統一教会」の名称変更が、安倍政権の時代に叶ったり、警備の元締めである警察庁長官はあの中村氏だったり、元首相に近い人達も怒りの矛先を誰に向けて良いか戸惑っているのではないか。
庶民に、なけなしのお金を差し出させ、一部を政治家に流してお目こぼしを図る。そんな時代劇ばりの話の先が尻すぼみで終わるか注目される。
長崎新幹線が来るのに合わせて、開発工事がたけなわである。長崎市公舎ビルも想像を超えて高く立派だ。その陰で、老舗のお茶屋さんやケーキ屋さん倒産の知らせもある。とりあえず手を挙げてみたIRも、ダチョウ倶楽部の「どうぞどうぞ」みたいに押し付けられた感が出てきたところにハウステンボスの売却話である。因果はめぐり、肝心な時に言い出しっぺはいなくなっているのが世の常である。

(木)

2022年7月号掲載

「アベノミクスは買いだ」の安倍元首相をもじって、「岸田に投資を」と英国の講演で呼びかけ失笑を買った岸田首相。新しい資本主義の柱として資産所得倍増プランを打ち出した。
個人資産2000兆円のうち預貯金1000兆円を投資に回させようというもの。そもそも貯蓄すらない国民が30%といわれる中で、誰に向かっての話なのか。動かない休眠資産をたたき起こし、株式市場の活性化につなげる腹だ。外資に買収された有名企業が増え、日本の資産を狙う企業も暗躍する中、さらに国民の金まで差し出すとは。IR同様、バクチに巻き込むようなものだ。
一方で中高生に投資の授業も始まった。一定の金融教育は必要としても、実利的要素に満ちた株や投信などの話は子どもには無縁のはず。投資へのハードルを下げてリスクにさらし、社会保障の自己責任化を強めるための施策としか思えない。「若者よ夢より金だ」とは世も末だ。
虚業栄えて国滅ぶ。本来は実業を重視し、実体経済の成長をはかることこそが必要だ。安倍政権以降、永年にわたり成長戦略を掲げたが、いっこうに成長したとは聞かない。賃金は下落し、世界での地位も低下の一途をたどる。政策立案に携わる官僚も政府も国民の生活など全く分かっていない。退場してもらうほかない。

(人)

2022年6月号掲載

4年前の改定で妊産婦加算と言う妊産婦の受診を抑制させかねない制度が導入され、様々な批判のもと廃止されたが、今次改定でもマイナンバーカードで受診すればかえって診療費が増加するという制度が導入された。国はマイナンバーカード使用を普及させたいのかそうでないのか判断に苦しむ。診療費が高くなれば手続きの終わった人でも持っていないとして受診する可能性もありうる。2年後はカードリーダーのない医療機関は減点にでもするのだろうか。
保団連や九州ブロック会議でも度々要請したレセプト電算処理システム用コードは増やさないでほしいという要望を全く無視した、さらなる導入もなされた。審査支払機関の仕事量を減らし人件費を減らす分各医療機関の事務量を増やし、負担を医療機関に負わせる改悪としか思えない。
今年10月からの75歳以上窓口負担の2割化に伴う配慮措置導入はさらなる窓口・医療事務の混乱と仕事量増加を招くであろう。高齢患者すべてが後期高齢者医療広域連合に申請をすれば増加負担分が償還されるとする部分を十分理解できるかどうか疑問であり、還付金詐欺の温床にも成り兼ねない。5月は改定の影響か請求受付がシステム障害で滞った。10月にまた同様なことが起こる気がする。

(一)

2022年5月号掲載

村中璃子氏がドイツから帰国する予定の飛行機がウクライナ紛争のあおりを受けて2度も欠航となった。ウクライナはもともとワクチンに対する抵抗感が強い国で、ヨーロッパの中でもコロナワクチンの接種率が最も低い国だ。そこから500万人を超える難民が国外に避難した。マスクを着用していない人も多い。コロナどころではないだろう。
村中氏も、マスク無しのウクライナ難民と共にチェコから7時間を旅し、その後、3回ほど検査したが幸いコロナは陰性だったという。
未だ衰えをみせないコロナパンデミック。ただ、対応は国によって異なる。ワクチン接種を推進することは一致しているが、欧米諸国はコロナとの共存の方向へ舵をきった。社会経済活動を優先し、コロナに係る規制も順次撤廃されている。対照的なのがゼロコロナ政策を貫く中国。上海市をロックダウンしたが感染者は50万人を突破した。感染は止まらず北京をはじめ中国全土に拡大する勢いだ。
興味深いのが韓国。3月には1日の新規感染者数が50万人にも上ったにもかかわらず規制を緩和。飲食店も普通に営業しており、それでいて新規感染者数は減少。4月末には2カ月半ぶりに4万人を下回った。背景にあるのは検査数の多さだ。
感染の再拡大が始まった長崎。対応や如何に。

(孝)

2022年4月号掲載

テロの理由を何度聞いても複雑で理解しがたい中東事情と違い、ロシアのウクライナ侵攻は、21世紀の今、こんな単純な理屈で戦争が起きるのかと驚いてしまう。ロシア側は自衛のためと言うが、プーチンは、もし自分がウクライナの大統領だったら、さっさとNATOに加盟して西側の協力を取付け、ロシアに奪われたクリミアを取り戻すぐらいのことはすると恐れたのだろう。
チェチェン、グルジアのように上手く事が運ばなかったのは、スマホのせいかもしれない。ウクライナの状況がスマホの映像でほぼリアルタイムに世界に知れ渡るところが、これまでの戦争と違う。空爆後の悲惨な街の様子というのは、これまでもニュースで見かけてきたが、空気を裂く音がしたと同時に身を伏せる暇もなく目の前のビルで爆発が起こる。一瞬で人が雑に大勢傷つく。ゼレンスキー大統領の相手の琴線に触れるエピソードを交えながらの演説も、戦況を有利に運び経済制裁で関係国結束の一助になっている。
ロシア国内の情報統制の理不尽さはロシア国外にいる人達のほうが知ることになっている。ジャーナリズムが細る国では権力の暴走を許す。忖度を良しとする日本も例外ではあるまい。

(木)

2022年3月号掲載

「憲法改正」の動きが急だ。衆院選での維新の会の躍進で、衆院憲法審査会が始まった。論点は国会審議のオンライン化。定足数を定めた56条1項に関わるとの理由だ。が、要はコロナを口実に、憲法改正につなげることなのだ。
14年安倍内閣は歴代内閣が守ってきた憲法解釈を変更し、集団的自衛権を認める閣議決定を行った。専門家の意見も無視し、内閣の一存だけで平和国家の根幹を揺るがすという、暴挙だった。その安倍氏がまた、最近の国際情勢の危機に乗じて、敵基地攻撃論や核共有発言など憲法に反する動きを強めている。
参院選は改憲派が3分の2の議席を占めるかが大きな焦点になる。この間、憲法問題への国民とメディアの関心は低い。東京五輪番組の字幕虚偽問題に揺れるNHK。安倍内閣以来政権との距離に腐心し、政権監視の役を降りた感の民放テレビ。新聞離れによる経営危機を多角経営で打開すべく、五輪スポンサーとして開催を側面支援した五大新聞。彼らにとっても言論機関としての気骨を示すのは今のはずだ。「憲法くん」で知られるテレビに出ない芸人・松元ヒロ。自ら憲法になりきり舞台から政治家の嘘を笑い飛ばす。同調圧力に屈しない姿は清々しい。われわれは今、何をなすべきか。キング牧師のことば「究極の悲劇は善人の沈黙である」をいま一度噛みしめたい。

(人)