無影燈

2024年3月号掲載

 能登半島地震では、半島を囲むように走る道路網が寸断し対策が遅れた。江戸から明治にかけての能登は北前船の中継地として繁栄した。だが、陸路に代わってヘリやドローン、海路が活用されたとは聞かない。更に通信インフラの崩壊で情報が不足。何より自衛隊の投入も含め初動が遅れた。
 電気はほぼ回復したが水やトイレ、風呂などのインフラは2カ月以上経過しても改善せず過酷な生活が続く。地震予知連絡会による能登半島の地震予知は0.1~3%で緊急性が低いとされ、県も対策を怠った。
 先ずは被災者を一人残らず取り残さないことだ。石川県の地域防災計画は20年以上見直されず杜撰だった。水とトイレが特に深刻だ。想像を絶する生活が広がる。地震大国なのにトイレトレーラーは全国で僅か20台にすぎない。オスプレイ1機で400台も購入できるのにだ。他にも簡易トイレやマンホールトイレ、避難所の寒冷対策や簡易水道設置も遅れた。生理用品や避難用具は避難者数を多めに見積り、全ての自治体に最低でも1週間分は備蓄したい。災害時対応に関する全国の自治体間の情報共有の仕組みも作る。何より全国に23カ所もある半島への対策は急務だ。長崎県には3カ所もある。今こそ公助の出番だ。地震予知の見直しと原発停止は言うまでも無い。軍備よりも防災立国をこそ求めたい。

(人)

2024年2月号掲載

 各医療機関は昨年より医療DX推進の工程表に従って顔認証付きカードリーダーとオンライン資格確認が必要とされ導入費、維持費と経費がかさんできている。
 工程表によれば、この後23年度末から24年度初頭にかけ生活保護、訪問診療、地方公費、難病公費、オンライン診療に対してもオンライン資格確認を拡張予定で、それぞれ導入費用が掛かり、カードリーダー同様半額程度の補助金を払うとしている。しかし、申し込み締め切りはもうすぐなのに、まだベンダーにも情報が届いていないのが現状である。特に地方公費、難病公費はデジタル庁の管轄でまだ実証段階との事である。
 これらがすべて導入されるとカードリーダー受付画面で「承認する・しない」の選択画面が倍増され、さらに受けつけ時間がかかり、窓口は混乱するであろう。医療機関も診療報酬は増えないのに、導入費、維持費がかさんでしまう。医療機関にとって、重複処方・相互作用情報がリアルタイムで確認できることしかメリットがない電子処方箋も義務化されると負担はさらに増えるものと思われる。
 カードリーダーも導入時に10万円を補助金で補ってもらったが、これから開業する先生たちは20万円+導入料が必要とのことだ。医療DXは政府には都合がいいが、医療機関にとっては負担の多い政策である。

( 一)

2024年1月号掲載

 内閣支持率の下落が止まらない。昨年末、毎日新聞の世論調査によれば岸田文雄内閣の支持率は16%と遂に20%を切った。2022年11月「しんぶん赤旗」日曜版のスクープをもとに神戸学院大学の上脇博之教授が東京地検に刑事告発したことに端を発した自民党のキックバック裏金疑惑は特捜部による安倍派・二階派に対する強制捜査にまで発展した。内閣官房長官を含めた政権幹部の交代が相次ぎ、今後内閣支持率がどこまで下がるか想像もつかない。
 過去の内閣の最低支持率を振り返ると、2011年菅直人内閣が16%。民主党への政権交代に対する期待が大きかっただけに失望も大きかった。これに東日本大震災、福島第一原発事故が重なった。政権交代前2009年の麻生太郎内閣は13%。同年8月に日本原水爆被害者団体協議会との間で原爆症集団訴訟終結への「基本方針」が確認された。2001年の森喜朗内閣は9%。米国原子力潜水艦と練習船「えひめ丸」衝突事故の一報を受けながらゴルフを続け、日本中から非難を浴びた。
 さらに遡ると竹下登内閣。リクルート問題に揺れ、1988年の内閣支持率はなんと7%。政権を細川連立内閣に譲り、戦後初めて自民党が野に下った。
 2024年の政局はどのように動くのか。日本が道を踏み外さないように、国民が正しい選択をすることに期待したい。

( 孝)

2023年12月号掲載

 熊本で運用されている「くまもとメディカルネットワーク」の話を聞く機会があった。患者の同意を得て、医療に関する情報を、医療機関をはじめ、薬局、訪問看護ステーション、介護事業所、地域包括支援センターなどで共有するもので、文書だけでなく、画像、動画も見られ、掲示板機能も併せて一目で伝えたいことが分かるシステムになっている。熊本地震やコロナ禍を経て、情報共有に同意している患者数は10万人を超えているとのことだった。
 国はオンライン資格確認、電子処方箋に続き、傷病名、アレルギー、感染症に関する情報、薬剤禁忌の情報、検査情報などを医療機関同士で共有する仕組みを導入する予定である。ただ、患者の同意にマイナンバーカードの利用が前提であるだろうから、その前途は明るくない。国の情報共有サービスが、情報の内容も範囲も、熊本のそれよりも見劣りするのは皮肉な話である。
 全ての医療情報が共有化されれば、結果的に、患者一人に一つのカルテになる。全ての診療科の医師は、そのカルテに自分の行為だけを記録すれば良い。患者の希望で、診療科によってアクセスできるレベルが区分けされるだろうが、そんな時代を患者としてではなく、現役で経験したいものだが皆さんはいかがか。

(木)

2023年11月号掲載

 イスラエルとハマス間の局地戦が激化している。米国はいち早くイスラエル支援に踏み切ったが、日本は停戦に向けた外交努力も発揮できず米国へ忖度するのみ。
 鎖国政策の江戸・日本にはまだ独自性があり、長崎を対外貿易の窓口とした。オランダ東インド会社はインドネシアのバタビアに拠点を構え、日本との貿易も担った。地理的にも欧州からの海上路の中間に当たり、工芸品などに加え砂糖、香辛料、織物などを、時にはラクダや象なども運んだ。戦前は植民地にして同化政策も行なった。
 そのインドネシアはいま10カ国からなるASEANの議長国として存在感を示している。GDPで見ると23年度の推計値は2010年の3倍強、2000年の12倍にも達し世界16位にまで躍進した。30年には日本を上回るともいわれる。ASEANはベトナム戦争やカンボジア内戦などの経験に学び、これらの国を含む東アジア全体からの戦争の追放を決議し実行している。平和を国作りの中核に据えて発展もしてきた。タイやベトナムなどの躍進もめざましい。そのインドネシアですらまだまだインフラの整備は先進国に後れを取る。日本は永年培ってきた先端技術をこれらの国の発展に活かし、平和国家としてリーダーシップをとれないものか。軍事同盟ではなく地域平和の伝播・拡大をこそだ。

(人)

2023年10月号掲載

 医療情報システムの安全管理に関するガイドラインが今年5月に第6版に改訂され、サイバーセキュリティ対策チェックリストの策定が義務付けられた。来年度から保険所による立ち入り検査の際必要になる。そのチェックリストは厚労省のホームページに載せられているが、9月13日にその記載に関する第1回の「導入研修 立入検査対策コース」説明会がオンラインで実施された。
 チェックリストの作成はなかなかハードルが高く、各医療機関は早急な取り掛かりが必要と感じた。例えば事業者からセキュリティ開示書を提出してもらう。退職者等の使用していないアカウントを削除する。アクセスログを管理している。セキュリティパッチを適用している。接続元制限を実施している。インシデント発生時における医療機関内と外部関連機関の連絡体制図の作成などである。
 まだ事業者の対応も不十分のようで、担当者レベルでは確認が取れなかった。導入時のレセコン業者との契約書には退職者のアカウント削除はできないと記されている。接続元制限はできているとの事であったが再確認が必要だ。10月末までにはスライド原稿を開示するとの事だったので、まとめて会員には周知したい。いずれにしても小さな診療所や弱小事業者は生き残れない時代になりつつあると感じた。

(一)

2023年9月号掲載

 若者言葉の「バズる」とは、多くのハチが群がる様子を表す英語の「buzz」に由来し、SNSやインターネットで一つの話題に注目が集まり、アクセスが沸騰する様をいう。
 顔認証付きカードリーダーはAIが本人かどうかを判断し、普及率は8割を超えた。先日、ふと思いついて自分の顔写真を紙に印刷し、フェースシールドに貼り付けてお面を作り、自分のマイナンバーカードで顔認証したところ、すんなり認証を通過してしまった。スタッフにお面をかぶせて試しても同様の結果であったので動画に撮影した。この動画に注目した東京新聞が【検証】他人のマイナ保険証が使える?医師「なりすましできてしまう」と題して電子版に掲載、動画を公開したところ、バズった。記事の閲覧数は1日で10万回を超え、翌日のX(エックス、旧ツイッター)ではトレンド入りを果たした。Xのトレンドに入るのは、一生のうちこれが最初で最後だろう。
 医療機関を受診するのに何故顔認証が必要なのか。政府は「なりすまし」受診を防ぐためだと説明するが、それならばマイナンバーカードには顔写真が印刷されているので受付で確認すれば済むことである。逆にマイナンバーカードの顔写真から簡単になりすましができてしまう。本末転倒である。AIを過信してはいけない。

(孝)

2023年8月号掲載

 今年は戦後78年になる。自分は62歳で、戦争は読んだり聞いたりして学ぶものだけど、敗戦からほんの15年やそこらで生まれたのだし、若い人からみたら、もしかしたら空襲を経験したと勘違いをされるぐらい、今よりもはるかに戦争に近い世代のように感じられることだろう。
 僕ら前後の世代と、令和の今とで、本当はどちらが戦争に近い世代かというのは、この先、何年戦争を避けられるかという問題にかかっている。原爆の、終戦の夏はそれを考える季節である。その日がXデーとして、Xデーがいきなりやって来ることはないから、その前兆をとらえるには、過去のXデーを迎える前のことが参考になる。
 1941年12月8日の開戦の年。6月にヒトラーがソ連に進攻。日本では7月に御前会議で対米英戦を辞さずの決定が下される。その前の年、アメリカとの関係改善を模索した米内内閣が倒れ近衛内閣が発足。さらにその前の年、アメリカの対日石油禁輸につながる天津事件が勃発。国内で反英感情が沸き上がった。
 結局、戦前も世論が国を動かしていた。憲法が変わっても根強い軍事依存体質が治らないのは仕方ないとして、「今日は戦争をしないで済んだ」という日を一日一日積み重ねて、とりあえず戦後100年を目指してはどうかと思う。

(木)

2023年7月号掲載

 先進国ではLGBTに対する理解が進んでいるが、法的にも差別を温存している日本。LGBT法が成立した。当事者団体は「さらに生きづらさを強いる」との非難声明を出した。
 電通が先年実施した6万人調査では、LGBTは8.9%だった。少数派とはいえ、わが国の人口に当てはめると1千万人もが該当する。大学病院で専用相談窓口を設置しているのは順天堂大学のみ。多くの人が医療へのアクセスを奪われている。西日本新聞の調査では性的少数者の3人に2人が医療サービスでの困難事例の体験者だ。この国はいつでも、どこでも、誰でも医療が受けられるはずではなかったか。そこに多様性と人権は垣間見えない。
 わが国は歴史的にもジェンダーレスな社会だった。古代の女系社会から平安後期、室町時代は女性の時代。戦乱の世では男性優位に変わる。いまの常識はせいぜい明治以降に確立されたにすぎない。性道徳の面でもルイス・フロイスやフランシスコ・ザビエルなどは日本の性の緩さに驚きを隠さなかった。権威主義者のいう伝統とは視野狭窄でしかない。
 総選挙はいずれ行なわれる。頭が固く特権意識の鎧を着た高齢議員は無論アウト。ワンイシューででも投票したい。LGBT法やマイナ保険証、岸田ジュニア問題だっていい。これだけは譲れないということが必ずあるはずだ。

(人)

2023年6月号掲載

 電気(EV)自動車に試乗する機会があった。欧米や中国ではEV車が主流とのことで、数年後には日本でもガソリン新車は販売不能になるとの報道であるが、これが本当に脱炭素ガスになるのであろうか。重い電池は車の重量を増し、燃費の悪化とタイヤの消耗を早めると説明を受けた。電池のレアメタル採掘に要する費用はむしろCO2を増やすのではと思う。電気は貯めることが困難で、そのため多くの医療機関が安い(余った)原発による夜間電気用温水器の設置を勧められた。
 電気を作るためのエネルギー変換効率は石炭火力で40%、原子力発電で33%とされるが、電力からさらにモーターで動力とするためには20~99%の変換効率で、50%前後のディーゼルエンジンよりも劣る。このまま電気自動車の方向に進むのが本当に脱炭素ガスとは思えない。
 例えばドイツは原発大国フランスやロシアからほとんどのエネルギーを買って、自らはクリーンエネルギー大国と言っていたが、去年の冬から実現不可能な脱炭素、脱原発の「誤り」が露呈し、そのため強引なEV計画の先延ばしや国内石炭産業の「再活性化」をせざるを得ない状況となっているそうだ。原発が危険なことは福島第1原発で証明済みである。EVは決してCO2削減にはならない。

(一)

2023年5月号掲載

 東長崎の旧古賀村はかつてキリシタンの村だった。安土桃山時代には、5つの教会とセミナリオがあったという。江戸時代になりキリスト教が禁止された。教会は取り壊され、教徒は弾圧、処刑された。八郎川のほとりに殉教者を弔う碑がひっそりと佇んでいる。潜伏キリシタンとなった人々は聖母マリアのかわりに子安観音の像をつくり、ひそかに信仰の灯をつないだ。今でも、小さな子安観音像が国道34号線沿いの小高い丘に祭られている。子安信仰は安産、子育て、子沢山を願う信仰である。
 江戸時代、20代の女性の10人に1人は出産で命を落としたともいわれる。我国の出産1000に対する周産期死亡率は1970年に21・7だったものが、2020年には3・2まで低下した。2018年、ユニセフは日本を「赤ちゃんがもっとも安全に産まれる国」であると報告した。
 その一方で2022年の出生数は80万人を切った。少子化は政府機関の推定よりもはるかに早いペースですすんでいる。岸田首相は子ども関連予算を倍増し、異次元の少子化対策を行う方針を示した。しかし、その財源として社会保険料の引き上げが検討されている。出産一時金の財源として後期高齢者の医療保険料が引き上げられることも閣議決定された。国民に負担を強いるのではなく防衛費を削ることはできないのか。

(孝)

2023年4月号掲載

 WBC準決勝9回裏、村上選手の打球がセンターの頭上を越えた時、嬉しさのあまり泣いてしまった。投げるほうも打つほうもパワーでも引けをとらない選手達が揃ったことに驚く。一朝一夕にできることではないから、効果的な練習や身体を壊さない起用法がプロに限らず実践されるようなった証しかもしれない。
 日本サッカーは、メキシコオリンピック銀メダルの後、1991年のJリーグ発足まで低迷期が続いた。結局、ワールドカップに出場するまで、銀メダルから30年かかっている。直近のワールドカップで、ドイツ、スペインを破ったが、もし、プロリーグが発足していなかったら、永遠に勝つチャンスは訪れなかっただろう。水泳も代表選手を会議ではなくて記録会の結果で選ぶようになってから強くなったようだ。
 サッカー、水泳に限らず、一時は成功を経験した競技に、その後長い低迷が続く競技があるような気がする。成功体験に引きずられて組織の人事が滞ったままでは合理的な判断がなされるはずもない。
 人は成功体験で失敗し、失敗体験でまた失敗するが、組織もまた同じである。相手は常に同じではない。あの頃は良かったという時期があるなら、なおさら、変わらない人、変われない組織であってはならない。

(木)