無影燈2019年

2019年2018年2017年

2019年2月号掲載

厚労省は「医師の働き方改革に関する検討会」で、2024年4月から適用される医師の時間外、休日労働の上限時間を提示した。それによると全ての診療従事勤務医に適用する基本水準を「年960時間、月100時間」(A)、地域医療を確保する観点から医療機関を特定した上で適用する暫定的特例水準を「年1,900~2,000時間、月100時間」(B)として、Bについては医師需要の動向を踏まえつつ35年度末までに解消をめざすという。
B案の上限を月換算すると、いわゆる過労死ラインの2倍の時間外労働を許容する内容となるため検討会でも問題になった。しかし調査によると、現在、年1,920時間以上の時間外労働となっている医師が約1割はあって、彼らによって命が救われているのが現実であるという。
わが身を振り返っても大学勤務時代(心臓血管外科)には早朝から深夜まで、日曜日はなしという勤務生活が20年近くあった。やっとこの問題が表に出てきたという感である。
この問題の背景には医師数の絶対的不足、専攻する科による医師の偏在、都会への医師の集中など、現在の医療界に内在する大きな問題があるのは明白である。厚労省は2035年までには問題を解消するという。我々自身が改革の波をどう受け止めていくか正念場が近づいている。

(正)

2019年1月号掲載

平成を振り返って、価値観を覆す最も衝撃的な出来事は東日本大震災だ。安全神話は終焉し、日本も変わるかと思われた。が、原発再稼働につづき、政府は小型原発を相次ぎ建設する方針だ。老朽原発が稼働停止になるため浮上した、経済優先、目先のことしか考えない三流経営者的発想だ。
ドイツでは数学の授業で、答えが合っていても満点にならない。考えるプロセス、思考を重視するからだ。フィンランドは百年委員会が数十年単位の議論を行う。わが国ではデジタル化ゆえの二者択一の思考法に、SNSなどのネット環境が拍車をかけ、更に短期間での成果主義が跋扈する。
人類の誕生は700万年前、ホモサピエンスは20万年前だ。人間の一生など、鴨長明が言うようにあぶくにすぎない。自然に対し謙虚であるべきだ。原発の核のごみは10万年かけてやっと安全なレベルに達する。わが子に何億円もの借金を残したままで、安心して往生できる人などいないだろう。後世に大きなツケは残せない。
演劇は歴史、社会、言語、美術、音楽などがベースの総合芸術だが、舞台に時間と空間とが交錯する。科学でも長期にわたる観察や研究から、人間社会の本質に迫る発見もなされる。眼前の狭い世界に留まらない、ダイナミックでスケールの大きな考え方だ。空間軸のみならず時間軸で考えることが今こそ必要とされる。

(人)