無影燈2018年

2019年2018年2017年

2018年12月号掲載

安倍首相は来年10月に予定通り消費税を10%にすると表明した。今回も社会保障に充てるとの名目だが、前回の消費税増税時には予算案に法人税減税も盛り込まれ、そのため社会保障に回される分は微々たるものであった。今回もどうなるか分からない。
今回は軽減税率を導入するとのふれこみであるが、以前長崎で講演された消費税の専門家の一人である菊池英博氏は軽減税率の歴史のない国ではその導入にあたっては賄賂が横行すると述べた。現に今もどこまでが食料品で、どこまでがそれ以外か論争になっている。アメリカは州でも違いがあるが、食料品とその他は税率が違い、その区分は長い歴史で培われたもののようで混乱は見られなかった。また食料品は0%の州もあった。今日本で軽減税率を導入するとなると1年での決定は到底無理で、導入は見送られる気がする。
よくお金に色は付けられないと言うが、集めた税金はいつも支出が不透明になっていく。
現在問題になっているモリカケ問題のように国が不透明な支出を行っている限り私たちは増税には応じたくない。
日本政府は韓国が造船業界に補助金を出していることを非難してWTOに提訴したが、輸出産業に対する消費税の戻し税も立派な補助金になっており、良識を疑う。医療費にかかる消費税も戻し税にしてもらいたい。

(秀)

2018年11月号掲載

 第二次世界大戦末期、マーシャル諸島のウォッチェ島は米軍の攻撃で孤立。食糧の補給を断たれ、多くの日本兵が餓死した。宮城県出身の佐藤冨五郎氏もその一人だった。
冨五郎氏は死亡する数時間前まで克明な日記をつけていた。日記は戦後、戦友の手を経て奇跡的に家族のもとにもどった。冨五郎氏の長男、佐藤勉氏は当時3歳。日記は2冊の手帳にびっしりと鉛筆で書かれていた。
大川史織監督と日記との出会い。日記に綴られた家族への思い。3歳で別れた父への思い。74歳になった勉氏は3人の若者とともに父が過ごした最期の地、ウォッチェ島へ慰霊の旅にでかける。そして、映画「タリナイ」が生まれた。
戦前、日本の委任統治下におかれたマーシャル諸島には「アミモノ」、「エンマン」「コイシイワ」などの日本の言葉が残っている。マーシャル語で「タリナイ」は「戦争」を意味する。
美しい島の自然と無邪気な島民の笑顔。日常の中に残された戦争遺産。軽やかなウクレレの調べにのって慰霊の旅は続く。大川監督が若い感性で描いた渾身の記録映画である。
日記は大川監督らによって復刻され、『マーシャル、父の戦場』として出版された。壮絶なサバイバルの記録。飢えとの闘い。迫り来る死。「全ク動ケズ苦シム 日記書ケナイ 之ガ遺書 最後カナ」が絶筆となった。

(孝)

2018年10月号掲載

台風が過ぎ、おくんちを待たずして秋の気配だ。
沖縄で翁長知事の遺志を継いだ玉城氏が当選した。弔い合戦の要素を除いても、事前の予想より思いのほか大差の勝利となった。思えば、翁長前知事が当選後に上京した際は安倍首相、菅官房長官と面会は叶わず、事務方のトップと10分間会えただけだった。今回、政権与党は「対立より対話を」と主張した候補を応援したのだから、国はこの知事選の結果を受けて工事を強行するとなく沖縄県とじっくり対話を持つべきと思う。
沖縄知事選より前に行われた自民党総裁選は、安倍首相が危なげなく勝利した。自民党員の意志であるが国会議員を選んでいるのは国民なのだから、これもまた民意ということになる。国民が沖縄に米軍基地を押し付け、沖縄県民は基地を減らして欲しいと願う。対立より対話を望むなら両者同じ方向を向けば良く、米軍基地のことなので交渉相手は当然アメリカになる。
「最低でも県外」と言っていた頃、日米安保を盾にアメリカよりも先に大反対の声が挙がったのが国内だった。世界でもっとも危険な空港の一つである普天間に響く轟音には、軍用機のエンジン音のみならず敗戦の痛手を沖縄のみに押し付けている国内世論の傲慢さも加わっている。

(木)

2018年9月号掲載

ゴルフができなくなり、在宅が多く、時間が余るかと思ったが甘かった。事務仕事に時間を取られ、新聞や書物を読むことで時間はつぶれ、たまに外に出ると、その暑さが今まで以上に身に染みる。特に今夏は台風まで、今までになく東から西への逆コースを走り、自然界のルールが変ったことを実感させられた。
人間界でも、当たり前の事を当たり前に叫んできた前沖縄県知事、翁長雄志氏が8月8日に急逝した。翁長さんは、もともとイデオロギーを超えて沖縄の人々の生活と未来を守るための保守本陣の政治家であった。全国のわずか0.6%の面積の沖縄に、在日米軍基地の70%以上が集中している不平等、不公平さを訴えてきた人であった。彼は日本の中枢である”民主主義”の根幹のところを訴えてきたのではないか?銀座でパレードした折に、人々の無関心ばかりか「売国奴」、「日本から出ていけ」などの罵声があびせられたことが悲しかったとのべられている。
今、世界の政治が「民主主義」と「政党政治の危機」に立たされているという。ポピュリズム(大衆迎合主義)は「自分達だけが真の国民を代表する」という、一切の異論を認めない「反多元主義」の危険性を持つという。民主主義の原理は「相互の寛容」「多様性を認める」ことであり、もはや「左と右の対立軸」は終わりを迎えているといわれている。我々は民主主義の機能不全に要注意である。すぐに秋が来る。自民党の総裁選挙が間近い。未来のために真の民主主義を期待したい。

(正)

2018年8月号掲載

東京オリンピックまで2年を切った。NHKや組織委は盛り上げに必死のようだが、国民の目は冷めている。そもそも五輪誘致の際「温暖で理想的な気候」、「原発はアンダーコントロール」とのアピールが決め手となった。今夏、北極圏で気温33度を記録。ギリシャでは自然発火が原因の山火事が発生し死者70人を超える。東京23区内での猛暑による死者も7月だけで96人となった。北半球の猛暑はもはや想定外で、気象庁は「猛暑は災害」と発表した。
オリンピック利権に絡むIOC、政治家、企業、メディアが一体となり常軌を逸した8月開催に固執。選手や国民に犠牲を強いる構図となっている。この時期の五輪開催という殺人的行為の結果、事故が起こってもだれも責任を取ることはないだろう。
ジャパネット前社長高田明氏は夢を実現するにはミッション、パッション、アクションが重要という。ミッションは変えてはいけないもの。企業トップと従業員の気持ちの共有が経営を左右する。現在のオリンピックは巨大化して変質し、ミッションを喪失した。
政府、組織委は猛暑対策を喧伝するが、付け焼刃に過ぎない。真に選手、観客、国民の立場に立てば時期をずらす以外根本的な解決策はない。アスリートファーストが原点だ。事故が起こってからでは遅い。

(人)

2018年7月号掲載

出発を3日後に控えた4月30日、突然韓国のHIRA(健康保険審査評価院)から懇談キャンセルの連絡が届いた。HIRAは韓国のレセプト審査の中枢であり、今回の韓国視察の目玉でもあった。理由を問うと、「大韓医師協会(日本の日本医師会に相当)が文(ムン)ケアに反対してストライキを準備しており、そのような状況下で日本の医療団体と懇談する訳にはいかない」という返事だった。
韓国の保険医療制度は日本をもとに作られた。大きく異なるのは混合診療が認められている点である。例えば、MRIや腹部超音波検査は保険がきかないため、韓国では全額が患者負担である。文ケアとは文在寅(ムン・ジェイン)大統領が保険の効かない3200項目を5年間かけて段階的に保険適応とするという医療制度改革である。
それでは韓国の医師団体はどうして文ケアに反対するのか。ソウル特別区医師会のパク・ホンジュン会長は「診療報酬が低すぎて実勢にあわない。HIRAが全てを統制する。医療統制の強化。患者にも不利益が生じる」と反対の理由をあげた。
6月15日、政府は「骨太方針2018」の中で「支払基金業務効率化・高度化計画・工程表」等に掲げられた改革項目を着実に進めることを閣議決議した。着々と医療統制への道を突き進む日本。止める方法はないのか。

(孝)

2018年6月号掲載

「トップからの指示が曖昧」「大きな声は論理に勝る」「データの解析がおそろしくご都合主義」「新しいかよりも前例があるかが重要」「大きなプロジェクトほど責任者がいなくなる」、これは今から35年前に書かれ何度も版を重ねている「失敗の本質(日本軍の組織論的研究)」の帯に書かれていた宣伝文句である。日大アメフト部の問題にせよ、加計・森友問題にせよ、高度プロフェッショナル制度にせよ、原発問題にせよ、この文句の一部か、あるいは全てに該当することが分かる。
日大アメフト部事件は、映像に残っているし証言もあるのに、監督の指示の有無については水掛け論になっている。加計・森友問題や自衛隊日報問題については、状況証拠が積みあがるばかりで、責任の所在が故意に曖昧にされたままである。
平和憲法は大坂の陣のごとく外堀から埋められてしまったが、本丸は依然として孤高に立っている。大きな問題ほど曖昧に葬り去ろうという日本スゴイ文化から想像に難くないのは、国際紛争の解決に自衛隊が出ていくようなことがあっても、そこで起こったことを国民が正確に知ることはないだろうということだ。結局、時の政権が発表することを鵜呑みにするしかない。そしてそれは「失敗の本質」に書かれているいつか来た道である。

(木)

2018年5月号掲載

今、あらゆる報道媒体から入ってくる政権と官僚の言葉に「虚偽」と「隠蔽」の臭いが満ちている。報道される内容を聞いて、アメリカの精神医学者:M・スコット・ペックの著書:「平気で嘘をいう人たち」が浮かんだ。彼はハーバード大学を卒後、医学博士を取得し、後に米軍の精神科医としてベトナム戦争に従軍した。
米軍勤務中の1968年3月に、ソンミ村事件というアメリカ兵による虐殺事件が起こり、その調査委員長を命じられたが、調査が進むにつれて事件が真実であることが明らかとなり、委員会が中断させられるのである。この経験から人間の善悪の価値判断について、心理学的な分析をまとめたのが本著である。この中で、「個人による悪」と「集団による悪」について考察し、個人であれ集団であれ、人間の個々の行動はすべて、個々の人間の選択の結果であるという。そして、世の中には「邪悪な人間」が存在し、彼らの特徴として、「どんな町にも住んでいるごく普通の人。自分に欠点がないと思い込んでいる。異常に意思が強い。罪悪や自責の念に耐えることを絶対的に拒否する。他者をスケープゴートにして、責任を転嫁する。体面や世間体のためには人並み以上に努力する。他人に善人だと思われることを強く望む。」と分析し、彼らの巧妙な責任転嫁のやり方と淫靡な嘘をリアルに描き出し、その本質が「過度のナルシシズム」にあると解明している。昨今、報道される状況に何か似たものを感じないだろうか。

(正)

2018年4月号掲載

もはや官僚に矜持を期待するのは無理なのだろうか。故城山三郎が「官僚たちの夏」で元通産官僚・佐橋滋がモデルの主人公に語らせた、自分たちは「国家に雇われているのであって大臣に雇われているわけではない」との言葉がむなしく響く。結局詰め腹を切らされるのはいつの時代も官僚なのに。佐川元長官の証人喚問が終わった。
おおかたの予想通り、政権を守る発言しかしなかった。大半は証言拒否を貫いた。十分に役割を果たしたと政権側は評価した。安倍夫妻にとっても恩人だ。佐川氏の胸中はいかばかりか。生まれ変わって…という気持ちはなかったのか。宮沢賢治は読み解く。
安倍にもまけず、菅にもまけず、報道にも圧力にもまけぬ、丈夫なこころをもち、欲はなく、決して怒らず、いつもしずかにわらっている、あらゆることを、じぶんをかんじょうに入れずに、よくみききしわかり、そしてわすれず、官邸の竹の林の蔭の、小さな番小屋にいて、東に病気のこどもあれば、行って看病してやり、西につかれた母あれば、行ってその稲の束を負い、南に死にそうな人あれば、行ってこわがらなくてもいいといい、北にけんかやそしょうがあれば、つまらないからやめろといい、ほめられもせず、くにもされず、そういうものに、わたしはなりたい。

(人)

2018年3月号掲載

日本で島の数が一番多い都道府県は長崎県で971島である。うち、有人離島が59島と、こちらも日本一多い。このため、古くから遠隔診療が試みられてきた。
4月から遠隔診療はオンライン診療と名前を変えて診療報酬に組み込まれる。しかし、拙速な保険導入に慎重な対応が必要である。
4月から長崎県医療費適正化計画(第三期)がスタートする。平成27年度の都道府県別国民医療によれば、長崎県の人口1人当たりの医療費は41万1100円で、全国2位である。総人口に対する65歳以上の割合(高齢化率)は、29.6%で、全国平均を上回っている。1人当たり前期高齢者医療費(65歳~74歳)は、61万3426円と全国で最も高く、1人当たり後期高齢者医療費(75歳以上)は、110万2286円で全国4位となっている。
4月から国民健康保険の都道府県化が実施される。昨年公表された「支払基金業務効率化・高度化計画」には国保連合会も含まれる。全国的にみても高い長崎県の医療費を抑制するために、今後コンピュータ審査が強化されることが予想される。
日本医事新報2月号によれば、長崎県の診療所医師の高齢化率は41.3%、平均年齢は62.2歳で、いずれも全国1位という。
高齢化自体は悪いことではない。高齢化社会の中で、より良い医療の実現を目指したい。

(孝)

2018年2月号掲載

長崎空港の滑走路は北北西と南南東を向いている。夜に飛行機が北側から着陸する時はハウステンボスのド派手なイリュミネーションが見える。綺麗ではあるけれど、その輝きを唐突に感じるのは周囲が暗過ぎるためだろうか。
空港に南から進入する場合、飛行機は橘湾から大村湾に向かって土地が一番くびれている部分を越えるために大きく旋回する。その手前で海でもない川でもない泥色の水溜まりが見える。諫早干拓の調整池だ。その東側は海色で干拓の仕切りからわずかに泥色がこぼれている。その色のコントラストが極端でハウステンボスの光の比ではない無理矢理感を覚える。
東北の牡蠣は震災後でも森から流れ下る養分が豊富で震災直後から養殖が復活し、復興のシンボルになっているらしいが、有明海のタイラギの不漁は逆の意味でシンボリックなことだ。佐賀平野の南側には背の高い防潮堤に登らないと海が見えない場所がある。まさに洪水を防ぐためだ。諫早は防潮堤を高くする代わりに海を仕切ることを選んだけれど、人と人の間にも仕切りができて裁判沙汰が長引いている。
新幹線を呼ぶために長崎本線の複線化は議論の遡上にも登らなかった。開通後の運行予定を聞けば、早いうちに複線化して快速電車でも通していれば、とっくに便利になっていたと思う。

(木)

2018年1月号掲載

2018年、新しい年があけた。昨年1年は、世界中が不安定と不信感の中に明け暮れた1年であった。昨年年納めの一文字は「北」。今年も「北」を挟んで世界情勢は一発触発、核戦争前夜の危機がそこにある。
戦後72年、72年間戦争のなかった国は世界史の中にないそうである。今現実に戦争の危機がそこにあり、そして今上天皇が2019年4月30日で退位されて、「平成」がまさに終わろうとしている。「昭和」の大戦後から「平成」を生きてきて思うのは、世界の中に戦争やテロがあふれているこの時代に自国の戦争がなかったことの幸せさである。
昭和の元号は日本史の中で最も長期(64年)、世界史の中でも最長期の元号だそうである。昭和は世界大戦をはじめ数々の戦争を体験してきた。「昭和」は四書五経の一つ書経尭典の「百姓昭明、協和萬邦」から「国民の平和および世界各国の共存繁栄を願う」意味である。また「平成」の由来は「史記」五帝本記の「内平外成」、書経の「地平天成」に由来し「国の内外、天地とも平和が達成される」との意味が込められているという。
「昭和」も「平成」も、求めるところの原点は「平和」と「共存、繁栄」である。新天皇を迎えようとするこの一年、我々は「元号」の意味するところをもう一度考え直す時と言えそうである。

(正)